2.「グリーンブーツ」として知られる遺体は、エベレスト登頂のリスクを象徴
3. 遺体を山に残すことの是非が、登山者や地元の人々の間で議論されている
エベレストは世界で最も高い山であり、8,849メートルという高さを誇ります。そしてこの山は、雪崩や極端な気象条件、高山病の危険性が高い、といった危険な要素を多数含んでおり、最も危険な山の一つでもあります。
そういったリスクにもかかわらず、現在でも毎年多くの登山者が登頂を試みており、その結果、エベレストは登頂を試みて命を落とした人々の墓場となっている現実もあります。
エベレストで最も有名なランドマークの一つは、 「グリーンブーツ」 として知られる登山家の遺体ででしょう。この記事では「グリーンブーツ」とは一体誰なのか、なぜ残された遺体は回収することができないのかにせまっていきたいと思います。
グリーンブーツ
このニックネームは、彼が履いているブーツの色から名付けられました。
彼はデスゾーンのレインボーバレー部分で亡くなった多くの登山家の一人であり、しかし、彼の遺体はエベレスト登頂を目指す登山家たちにとって物議を醸すランドマークとなっている事実もあります。
(グリーンブーツの男性の写真 引用元:https://www.ultimatekilimanjaro.com/green-boots-on-mount-everest-who-was-he-how-did-he-die/ About Ultimate Kilimanjaro®)
「グリーンブーツ」の本名はツェワン・パルジョル、インド・チベット国境警察の一員でした。1996年、北海嶺からエベレスト登頂を目指す遠征隊に加わっていました。
しかし、1996年5月10日に激しい猛吹雪に見舞われ、パルジョールを含む数人の登山者が嵐に巻き込まれてしまいます。パルジョルと2人のチームメイト、ドルジェ・モルップとツェワング・スマンラは時間内に下山できず、嵐の中で命を落すこととなりました。
彼は、エベレスト史上最悪の1日の中で亡くなった登山家の1人でもあります。
1996年の大量遭難事故は言うまでもなく、同じ日、スコット・フィッシャーやロブ・ホールといった他の有名な登山家たちも同地で命を落としています。さらに、この出来事はエベレストを題材にした3D映画『エベレスト』でも描かれることとなりました。
グリーンブーツの現在
グリーンブーツの遺体は回収されず、死後もエベレストに残されており、現在は山の小さな洞窟のような割れ目に置かれています。
この洞窟は標高約27,890フィート (約8,500メートル)、エベレスト山頂のすぐ下に位置しています。この山で最も目に見える目印の1つであり、北海嶺を経由してエベレスト登頂を試みる多くの登山者によって目撃されることになりました。
グリーンブーツの所在地はデスゾーン内にあり、有名なエベレストのレインボーバレーの一部です。極寒の寒さに加えて、高山病に苦しむ人も多く、この地域では長年にわたって多くの登山者が命を落としてきました。
エベレストでは200人以上の死者が出ており、「グリーンブーツ」の位置は世界最高峰へ挑戦することの恐怖を思い起こさせるものともなっています。
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エベレストの教訓として
グリーンブーツの存在は、エベレスト登頂を目指す登山者にとって重要なシンボルとなっています。
遺体は、エベレスト登山の危険性と、山の過酷な環境に備えることの重要性を思い起こさせます。多くの潜在的な登山家にとって、遺体を見ることは、エベレスト登頂のリスクを視野に入れた、身が引き締まるような体験だからです。
グリーンブーツの物語は、登山者のコミュニティにも影響を与えています。彼の死はエベレスト登山の危険性を示す例として用いられているのです。「遺体を山に残す」ことについては、議論が引き起こされてきました。
しかし現実問題として、グリーンブーツもといツェワン・パルジョルは25年以上も山に置き去りにされたままとなっています。もちろん山に遺されているのは彼だけではありません。
エベレストではこれまでに200人以上の死者が出ており、多くは山頂に近い死のゾーンで凍死しています。遺体を山から下ろすのは非常に危険であり、多額の費用が必要になるため、遺体の多くは回収されていません。
遺体の放置に物議
「グリーンブーツ」で最も物議を醸しているのは、遺体を山に置き去りにしていることでしょう。
下山できない場合は遺体を山に放置するのが一般的ですが、多くの人は遺体を山に放置するのは倫理に反すると考えていまあす。
遺体をエベレストに残すことについては、賛否両論があります。
遺体を取り除くことは危険で費用がかかり、より多くの命が危険にさらされるため、そのままにしておいた方が良い、遺体を山に残すことは、エベレスト登頂を試みて亡くなった登山家を称えるための方法だとも言われています。
一方で唱えられているのが倫理的な問題です。遺体を山に残すことに反対する人々は、死者とその家族に失礼だと考えています。
山に遺体を残すことは倫理的におかしく、登山の危険性を思い起こさせるのは死者への冒涜だというのです。
また、多くの地元の人々はエベレストを神とみなしているため、死者を置き去りにすることは、一般的なゴミと同様に、神にとっても宗教や信仰にとっても不名誉なことであるという意見もあります。
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まとめ
25年以上経った今も、エベレストに遺されている「グリーンブーツ」の遺体。
エベレストでのグリーンブーツをめぐる論争は続いていますが、遺体をエベレストに残すことの代替案について議論が行われています。
一つ目は、安全で確実な方法で山から遺体を運び出すシステムを確立すること。これには、高高度での身体の回収と輸送を専門とする専門家チームを作ることも含まれます。
多額の費用がかかる上、困難も多いですが、遺体を山に残すことをめぐる倫理的な懸念を払拭できるのでは、といわれています。
また、エベレストで亡くなった登山家のための慰霊施設を設置することも考えられています。これはまた、エベレスト登頂の危険性を再認識させ、エベレスト登頂を試みて亡くなった登山家を称えるための手段にもなるでしょう。
しかしどちらも議論の域を出ておらず、実現にはいたっていません。
エベレストにある「グリーンブーツ」の遺体は、登山者にとって重要な目印 (またシンボル) となっていますが、一方で遺体を山に残すことの倫理についての議論も巻き起こすものとなっているのでした。
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