槍の持ち主が世界を支配するというロンギヌスの槍。元々は新約聖書におけるイエス・キリストを突き刺した槍ですが、エヴァンゲリオンでは、その性質ゆえに、エヴァや使徒に投げるだけで倒せるといった高性能な武器として登場していました。
この記事では、結局「ロンギヌスの槍」とは何なのか、アニメの設定ではない「本物のロンギヌスの槍」をわかりやすく解説していきます。
- 絶命を確かめるため、キリストの脇腹に挿し入れられた「ロンギヌスの槍」
- 「持つ者は世界の覇者になる」と囁かれ、錚々たる支配者の運命を翻弄
- 本物とされる槍はいくつかあり、現物はウィーンや、アルメニアで所蔵されている
ロンギヌスの槍とは
(アルメニアのエチミアジン大聖堂に保存されている聖槍)
こちらはアルメニアのエチミアジン大聖堂に保存されている「ロンギヌスの槍」です。エヴァに出てくるものとは、だいぶ形状が違う感じがしますね。
「持つ者は世界の覇者となる」という神秘の力を秘めた「ロンギヌスの槍」。この槍は実に数奇な運命を辿ってきました。話は、紀元33年頃、ゴルゴダの丘でイエス・キリストが十字架に手足を釘で打ち付けられ処刑されるところまで遡ります。
本当に絶命しているかどうかを確かめるために、ローマ兵がキリストの脇腹へ挿し入れたのが『ロンギヌスの槍』です。通常、死体からは大量に出血することはありませんが、ヨハネ副音書の一説には、イエスの身体からは「血と水が流れ出た」という記述がありました。そしてそのローマ兵は、槍から伝った血が目に入った瞬間、白内障で衰えていた視力が回復したというのです。
その名の由来
(サン・ピエトロ大聖堂にある聖ロンギヌス像)
キリストに槍を挿し入れた兵士の名前は「ガイウス・カシウス」、ローマ兵を率いる百人隊長でありました。彼はイエスにむかって「この人こそ神である」と叫び、洗礼をうけキリスト教徒となりました。「槍」は、この兵士の祖父から父へ受け継がれたものでした。祖父が戦いの功績を讃えられ、ジュリアス・シーザーから下賜された (与えられた) ものだったのです。
イエスの血をしたたらせた槍の穂先は「聖槍」と崇められ、「ロンギヌス (槍を手にする者)」と呼ばれることになりました。そして聖なる槍は『ロンギヌスの槍』として、次偉大の支配者たちの運命を翻弄し数々の伝承を作っていくことになるのです。
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持つ者は世界の覇者となる!?
(ホーフブルク宮殿が所蔵する「聖槍」)
さて、その後「ロンギヌスの槍」はどこへいったのでしょうか。イエスの弟子らによって英国のグラストンベリーに運ばれたとか、フランス革命の混乱で消息不明になったなどの多くの説がありますが、最も有力なのは、歴代の東ローマ帝国皇帝の手に渡ったいう説です。
代々のローマ帝国皇帝に引き継がれた聖槍ですが、最終的にはフランク王国の宮宰カール・マルテルからカール大帝に譲られることとなります。カール大帝は46年の在位中、彼はロンギヌスの槍を片時も離しませんでした。 連勝を重ね、まさに西ヨーロッパの覇者となった大帝、勝利の回数は46回にも及んだといわれています。しかし嘘か誠か、槍を落とした瞬間、槍のパワーに見放されたようにはあっけなく亡くなってしまったというのです。
槍を手放すと運から見放される!?
(西ヨーロッパの覇者となったカール大帝)
ロンギヌスの槍はその後も征服者たちを魅了し続けました。次々と新たな人物の手へとわたりますが、「手から落とすと命も落とす」という曰く付き。「ロンギヌスの槍を一度手にした者は世界の覇王となれるが、手放すと破滅し死に至る」という伝承が広まっていきました。
19世紀のはじめには、ナポレオンまでもが超自然的な力を欲しがり、聖槍を探し始めるようになります。当時神聖ローマ皇帝が所蔵していましたが、ナポレオンによりドイツは支配され、ナポレオンの手に落ちることを恐れた皇帝により、ロンギヌスの槍はオーストリア皇帝であったフランツ2世に贈られます。その後ハプスブルク家の所有物となり、同槍はウィーンのホーンブルグ宮で厳重に管理されていました。
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あのヒトラーも手にしていた
そして1908年、宮殿の博物館に展示されていた聖槍に魅入られたのが、後にナチスを結成するアドルフ・ヒトラーでありました。ヒトラーはまるで取り憑かれたかのように、博物館に幾度も通い詰め、恍惚の表情で聖槍と向かい合っていたといいます。それは、ロンギヌスの槍がヒトラーにこう語りかけたといった説も残っているほどです。
望みを失ったのであれば私を思い出すがいい。
いつの日か私はお前の手に握られ、お前は世界を支配する
当時のヒトラーは一流の画家を目指して「路上の絵描き」として生計立てる、野心溢れる青年でありました。しかしこの頃から礫的世界に興味を持ち、黒魔術などにも傾倒していったといいます。そして30年後、独裁者となったヒトラー。ハプスブルク家の財産もろとも「ロンギヌスの槍」を奪い取る青年時代からの夢を果たし、世界制覇をもくろむようになっていったのでした。
曰く付きの槍
聖槍のパワーを手にしたヒトラー率いるナチスドイツ軍は快進撃を続け、ヨーロッパのほとんどの地域を侵略します。しかし、ソビエトへの侵攻で敗北を喫しました。
ロンギヌスの槍は保管されていた教会からアメリカ軍によって奪還され、ヒトラーはベルリンの地下壕で拳銃自殺をはかりました。偶然か必然か、それはロンギヌスの槍を失ってからわずか1時間足らずのことでありました。
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ロンギヌスの槍の現在
その後、「ロンギヌスの槍」は無事にハプスブルク家へと戻されました。
現在はウィーンの自然美術史博物館に保管されていますが、「実はその槍は偽物で本物はドイツのある場所に隠されている」という説もあります。代々神聖ローマ皇帝を務めてきたハプスブルク家、歴代の君主に力を与えてきたという意でも、ひとつのコレクションとして大切に保管されています。
ちなみに、ハプスブルク家は650年以上にわたりヨーロッパを広く支配してきた一族でありますが、ロンギヌスの槍が返ってきた頃にはすでにその巨大王朝も終焉を迎えていたのでした。
まとめ
しかし先にも述べた通り、他にも「ロンギヌスの槍」と呼ばれる聖槍が存在します。アルメニアやウィーンの槍は偽物で、本物はどこかに厳重に保管されている可能性もあるといいます。
どれが本物なのかはわからずじまいですが、ロンギヌスの槍には「所有するものに世界を制する力を与える」との伝承があり、「ヒトラーの野望は、”聖槍”の霊感を受けた時より始まった」といった俗説は後を立ちません。ヒトラーを含めて「所有するものに世界を制する力を与え」「手放すと破滅し死に至る」という伝説を多く作ってきたことには違いないのでした。
エヴァのモチーフとなった「ロンギヌスの槍」。実際に征服者たちを翻弄してきた同槍のエピソードを知った時、アニメにまた少し違った重みを感じるようになるかもしれませんね。
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