スペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスが描いた「ラス・メニーナス」。真ん中に描かれた愛くるしい少女こそ、中世のスペイン宮廷に生まれたマルガリータ・テレサ王女です。
現在絵画はマドリードのプラド美術館で展示され、何千人もの観光客が毎日訪れていますが、彼女の悲劇的な歴史を知っている人は殆どいません。この記事では、愛くるしい少女マルガリータ・テレサ・デ・エスパーニャの生涯に迫っていきます。
- 中世欧州に君臨した巨大帝国、スペインハプスブルク家の王女マルガリータ
- 縁談は最たる外交手段、領地と莫大な財産目的に欧州列強が次々と彼女へ近づく
- 最終的には叔父の元へ嫁ぎ、6人の子供を産むが、産褥により21歳でこの世を去った
スペイン王女の宿命
父帝フェリペ4世のお気に入りだった宮廷画家ベラスケス。王はマルガリータ王女を特に可愛がり、ベラスケスら画家たちに多くの肖像画を描かせました。ベラスケスとマルガリータの間ではこんなやりとりがあったという逸話が残っています。
マルガリータはその画家に、自分は美しいのか、大きくなったら結婚するのかを尋ねる。画家は彼女を落ち着かせ、叔父のレオポルトとの結婚がスペイン王室の外交戦略の一部としてすでに決まっていることを伝えた
縁談は最たる外交手段
スペイン国王フェリペ4世と王妃マリアナの元に生まれたマルガリータ・テレサ。王女が大きくなると他の多くの若い王族と同様に、彼女の結婚は国事行為となり相手探しが始まります。異母姉マリー・テレーズはフランスルイ14世の元に嫁ぎ、妹のマルガリータはオーストリアにいる伯父レオポルト1世の元へ嫁ぐことに決まりました。
レオポルト1世は母親の兄であり、マルガリータにとっては実の叔父。幼いマルガリータがレオポルト1世と婚約したのは、スペインとオーストリアにわかれたハプスブルク王朝の和解のためでした。(ヨーロッパでいわゆる30年戦争を終結させたウェストファリア平和条約が調印された後、2つの家は距離を置いていた)
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王女に近付く欧州列強
ウェストファリアの後にうまれた新たな均衡状態、当時の欧州列強は各々優位に立とうと必死でした。そういった外交背景において、『マルガリータ王女』はとても価値ある存在だったのです。それにくわえてマルガリータの弟カルロス (次期スペイン国王) は近親婚の影響で統治ができない状態にあったため、多くの人は彼女と結婚すれば、いずれスペインの所有する領地と莫大な財産を相続できると考えていました。
ちなみにラス・メニーナスと同じくらい有名な絵画『青いドレスの王女』は、婚約者の姿を報告するために描かれたもので、オーストリアにいるレオポルト1世の元へ送られていたといいます。
孤独で窮屈な生活
派手な宮殿でスペイン女と揶揄されて、王は愛人に夢中で王妃に目もくれず、という異母姉と違って、オーストリアのレオポルト1世は温厚な性格で知られており、夫婦仲は比較的穏やかなものでした。幼い頃から知っていたこともありマルガリータは彼を「おじさま」と呼び慕ったそうです。
しかし夫婦仲はよくともマルガリータはウィーン宮廷に慣れることができず、マルガリータの侍女とウィーン宮廷の侍女もソリがあわず、宮廷での立場はとても孤独なものでした。幸か不幸か16歳にして子供を産み、6回の妊娠を経験しますが、産褥により彼女は21歳という若さで亡くなってしまいます。
王女の画
マルガリータの伝記はヨーロッパ近代の王族における内婚 (近親婚) の典型的な例だといわれています。。彼女の両親は叔父と姪で、彼女自身も母親の兄と結婚することになっていました。1656年に完成した『ラス・メニーナス』は、ときに『フェリペ4世の一族』とも呼ばれ万国共通絵画の傑作の1つと見なされています。
そこではフェリペ4世の宮廷画家ベラスケスが宮殿の日常風景のなかで、侍女たちであるメニーナに囲まれたマルガリータ王女を描いています。ルネサンス期まで画家の匿名性が重視されていましたが、この作品は斬新にも王女マルガリータを中心として、国王夫妻を描く画家自身が構図に入っているのが特徴です。ベラスケスが過労で亡くなったのが1660年、マルガリータが亡くなったのはその13年後、1673年のことでした。
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まとめ
中世欧州に君臨した巨大帝国、スペインハプスブルク家の王女マルガリータ。縁談は最たる外交手段として、領地と莫大な財産目的に欧州列強が次々と彼女へ近づきました。最終的には叔父レオポルト1世の元へ嫁ぎますが、6人の子供を産んだ後、産褥により21歳という若さで亡くなってしまったのでした。
彼女は父王フェリペ4世の大のお気に入りで、国王は宮廷画家ベラスケスに多くの絵を描かせました。王女が他国へ嫁ぐのは慣例でありましたが、マルガリータ王女についての逸話がこんなにも残っているのは、天才画家ベラスケスが彼女を多く描き残したためかもしれません。
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