ハプスブルク家は多くの英雄を輩出してきた名門一族ですが、そのなかでも際立つのが「中世最後の騎士」と呼ばれたマクシミリアン1世です。神聖ローマ帝国のローマ皇帝、オーストリア大公など多くの称号をもち、また婚姻外交『戦争は他のものに任せておけ、汝は結婚せよ』の礎を作った人物でもあります。この記事では、そんなマクシミリアン1世の生涯をみていきたいとおもいます。
マクシミリアン1世とは
ハプスブルク家の英雄と称されるマクシミリアン1世。『戦争は他のものに任せておけ、汝は結婚せよ』という言葉はこのマクシミリアン1世の時代からはじまるわけですが、実際のところ、
- 彼自身も、治世26年のうちに25回もの遠征をおこなっており、
- 自ら前線にたち傭兵を従え、正々堂々と騎士らしく戦った
といい、中世最後の騎士とも呼ばれています。
マクシミリアン1世は領土をブルゴーニュ、スペイン、ハンガリーへと広げ、ドイツ語圏におけるハプスブルク王朝の存在を確実なものにし、ハプスブルク家をヨーロッパ有数の名家にまで押し上げた人物でもあります。
生涯を戦場で過ごした、勇猛果敢な騎士
マクシミリアンは父フリードリヒ3世が付けたスコラ学の家庭教師に関心を示さず、一方乗馬をはじめあらゆる武芸に秀でていたといいます。
彼は騎士道物語や年代記、紋章学などに関心を持ち、実際生涯のほとんどを戦場で過ごしました。『マクシミリアン大帝』という名の通り、彼は正義と知恵、寛容や高慢さにおいて、どの王よりも優れていたといいます。
芸術への惜しみない愛情と、多額の借金
マクシミリアンの社交的で明るい性格や、芸術、学問への関心は、母エレオノーレの影響が大きいとされています。彼は豪商フッガー家から多額の借金をしてまで、芸術に惜しみなく金を注ぎました。2019年秋に上野で開催された『ハプスブルク展』でも、デューラーの凱旋門をはじめとする木版画が来日していました。
事実は「多額の借金を抱えていたため、なかなか油絵を注文することができなかっただけ….」のようですが、安くして「ハプスブルク家」の名前を世に広めるに版画は好手段だったのかもしれません。鎧などにもこだわりが見られ、最大限の保護を提供するだけでなく視覚的にも楽しい装甲を好んだそうです。
ハプスブルク家の特徴
出張った顎と受け口
こちらの肖像画はマクシミリアン1世と彼の家族、息子のフィリップ(左下)と、妻ブルゴーニュ公のメアリー(右上)も描かれています。ハプスブルク家というと『前に突き出した顎と下唇』という特徴を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
比較的目立たず描かれておりますが、この特徴はマクシミリアン1世にも見られたといいます。また孫のカール5世には顕著にみられるようになり、この優性遺伝子が(血が濃くなることにより)、スペインハプスブルク家に顕著に現れていくことになるのでした。
恐るべき婚姻外交で、領土を拡大
(妻ブルゴーニュ公マリーとの対面 19世紀画 画像引用元: Wikipedia)
中世に生きた「勇猛果敢な騎士」英雄の最期
多くの困難をいってに引き受け
こちらの肖像画が「晩年のマクシミリアン1世」、彼のお気に入りの画家、デューラーが描いたものです。領地を拡大し、政略結婚もトントン拍子に進みといいことばかりにもみえますが、実際のところは、
- スイスには事実上独立され、
- ヴェネチア戦を戦うも、屈辱的な講和を結ぶにいたり、
- ルターによる宗教改革ののろしもあがり
- 息子フィリップは若くして亡くなる (暗殺されたと噂あり)
と多くの困難も経験していました。そんなハプスブルク家から生まれた英雄は、多くの困難を一手に引き受け、1519年、59歳でこの世を去ったのでした。
マクシミリアン亡き後のハプスブルク家
結果としてハプスブルク家は、神聖ローマ帝国の皇帝の座をほぼ独占、5つの宗教と、12の民族を何世紀もの長きによって束ね続けることになります。フランツ・ヨーゼフが戴冠した帝国末期でさえ、「その領地面積はロシアを除いてヨーロッパ最大だった」といわれるに至りました。
マクシミリアン1世の意思は確実に後世に引き継がれ、この一族からは、マリー・アントワネットの母であり、美しき女帝マリア・テレジアなど様々な英雄やヒロインが生まれていくのでした。
あとがきにかえて
1498年旅から旅への日々を過ごしていたマクシミリアンは、やがて楽団を同行させるようになり、旅先での儀式はもちろん旅の途中でも演奏をさせたといいます。旅の楽団のメンバーは、後に作られたウィーンの王宮礼拝堂の聖歌隊に参加させ、宮廷礼拝堂少年聖歌隊を創設しますが、これがウィーン少年合唱団の前身となったと言われています。
歴史は確実にいまにつながっているのですね。様々な功績を残した中世の英雄、マクシミリアン1世の影響は、案外身近なところにあるのかもしれません。
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