- 題材となったのは、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」
- 『オフィーリア』に描かれたほとんどの花は、劇中で言及されているもの
- 見どころは、現実と戯曲の世界の交わりが美しいまでに表現されている所
題材となった戯曲「ハムレット」
絵画オフィーリアの題材は、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」。水に浮かんでいる女性こそ、復讐劇に巻き込まれ殺された父を思い水の底へ沈んでいくオフィーリアです。ちなみに、オフィーリアはヤナギの木に登り、小枝が折れたせいで小川に落ちて溺死してしまったとされています。
(前略)すてきな花輪を、垂れた枝にかけようと、柳によじ登ったとたん、意地の悪い枝が折れ、花輪もろとも、まっさかさまに、涙の川に落ちました。裾が大きく広がって、人魚のようにしばらく体を浮かせて―――そのあいだ、あの子は古い小唄を口ずさみ、自分の不幸が分からぬ様子―――まるで水の中で暮らす妖精のように。でも、それも長くは続かず、服が水を吸って重くなり、哀れ、あの子を美しい歌から、泥まみれの死の底へ引きずり下ろしたのです。(シェイクスピア『新訳 ハムレット』河合祥一郎訳、角川文庫、2002年)
溺れゆく美女
ミレーの『オフィーリア』に描かれているシーンは、実際のは舞台では見られません。
その代わり、ガートルード女王とオフィーリアの兄弟ラエルテスとの会話で情景が説明されます。オフィーリアは、彼女は父親のポローニアスが恋人のハムレットに殺されたときから、正気を失ってしまいました。まだ若い彼女は、悲しみに打ちひしがれ、狂気に苦しみながら死んでいきます。ガートルードは、オフィーリアが花を摘みながら川に落ちていき、その間ずっと歌いながらゆっくりと溺れていった様子を描写していくのです。
背景が意味するもの
『オフィーリア』に描かれたほとんどの花は、劇中で言及されているものです。これらはミレーが、実際にモデルとした川のそばに咲いていたものでもありました。彼は川の景色を5カ月かけて描いたため、一年のさまざまな時期に咲く花が隣り合っているのも特徴です。
ミレーは細部にまで気を配り、自然そのものを表現することにこだわりました。本物の花のディティールがよく再現されており、枯れた葉や割れた葉、満開の花まで彩り豊かに描かれています。
繊細なミレーの自然描写
写真は、ミレーがオフィーリアを描いた12年前の1839年に発明されました。しかし、写真は今日ほど鮮明ではありませんでした。ミレーのオフィーリアは当時の写真よりもディティールが細かく、リアルな自然がみごとに表現されていたといわれています。
ミレーの息子ジョンは「父が描く花があまりにもリアルだったので、学生たちを連れていくことができなかった植物学の教授がオフィーリアの絵の中の花を見に連れて行った」と書き残しています。まるで現実にあるかのような植物と、その中心に浮かぶ美しい女性。現実と戯曲の世界の交わりが美しいまでに表現されているからこそ、『オフィーリア』は人々を魅了し続けているのかもしれません。
まとめ
オフィーリアの題材となったのは、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」。描かれたほとんどの花は、劇中で言及されているもので、現実と戯曲の世界の交わりが美しいまでに表現されているのが一番の見どころといえるでしょう。